sayonarayouth

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BUKATSU MANGA

 未だに、夢を見る。

 高校生最後の文化祭を控えた、春の終わり。夏の始まり。

 最後の舞台。引退公演。その練習風景、或いは本番直前。

 それが同時に、あの空気感からの限りなく永遠に近い別れであることを、今の自分は知っている。

 二年近くを共にした同期と、信頼を築いてきた後輩と、自分たちの最後の芝居を作っていく。脚本は自分、演出も自分、そこまでは現実と、つまり己自身が経験した過去と、全く同じ。違うのは細部、芝居の内容、体育館の形、部室の形、多分それらはきっと、夢想した数多のパラレル、或いはリフレイン――つまりは、未練。

 もっとあの場にいたかった。知識や経験が身についた今ならもっと面白いものが作れる。時事ネタを取り入れよう、あのモチーフを使おう、絶妙なパロディを仕込んでやろう、なんて、それは夢想、妄想。たとえ今、かつてと同じメンバー全員でもう一度できるとしても、〝あの頃〟の繰り返しは、絶対に叶うことはない。

 届かなかった関東大会、未熟だった脚本、演出、演技、それら後悔、憧憬、そういうものが、きっと夢枕に残滓を、残照を、映し出すのだと、そんな風に思っている。

 

     ◇

 

 意外とスポーツ漫画が好きだったりする。運動は全く得意ではないし、特別興味もないけれど、やはりスポーツや部活を通して描かれる〝青春〟が、僕は好きなのだろう。

 古館春一『ハイキュー‼』を読み始めたが、これがもの凄く面白い。物語のテンポは特別早いわけではないけれど、一話当たりのコマ数が割と多めで、集団競技ものに自然と現れる群像の様相を巧く描いている。各キャラクター達も、高校生らしい愚直さ、未熟さがそれぞれあって、ありがちな「結局これ高校生のガワ被らせただけの物語だよね」という風になっていないのがとても良い。

 ドラマの始点は「かつての栄華は見る影もない元強豪校」。ありがちな設定でもやはり王道、そこから再び這い上がっていくという道筋がそのままストーリーになるわけだから、安心感もある。実質ダブル主人公のような描かれ方をする本作のメインキャラクターは、中学時代、人数不足で満足に試合もできず、悔しい経験をした過去を持つ日向と、飛び抜けた才能故にチームにおいて望むプレイができなかった影山(この作者はわりと直接的にキャラクターの立ち位置やモチーフを名前に冠させる)。二人は同じ高校のバレー部になり、個人や部が抱えている問題の解決を踏まえながら、互いの欠点を克服し、部員一丸となって全国大会に向かっていくというお話だ。友情、努力、勝利、なんて、最近はメタ消費されすぎて擦り切れた感のあるフレーズだが、しっかりその三要素を以て王道の少年漫画として描かれている。

 日向が所属することになったバレー部には三年生男子が三人いて、その三人の友情も群像として描かれるが、やはり「引退を目前にした最高学年」という存在はズルい。それだけで強力なドラマが生まれてしまう。「僕たちの時間は限られている」というテーマは、エモーショナルを牽引する。それぞれ抱く想いはあれど、「最後は結果を残して終わりたい」という強い意志で繋がっている三人には、単なる〝仲の良さ〟とは違う強固な絆が生まれる。ラブライブなんかもそうだけれど、メインの目標が彼ら/彼女らには同時に「終わっていく青春の区切り方」として機能するから、それを物語の軸に据えなくても、(むしろ据えないことによって)強く印象付けられるのだと思う。しかしこれは、メインターゲットである中高生があまり持たない視点のような気もする。いつの間にか18歳も遠くなったものですね……。

 絵のタッチや〝男子〟の描き方からして、なんとなく作者は女性なんじゃないかと思うのだけど、この漫画は結構な頻度で男の泣き顔(泣くのを堪える顔、泣きそうな顔)が描かれる。こういう描写は男性漫画家には少ない印象があり、そのような要素もまた、この漫画の空気感を決定づけていると思う。『僕のヒーローアカデミア』(こちらは作者は男だが)の初期なんかもそうだけれど、高校生がみっともなく泣きじゃくりながらそれでもがむしゃらに突き進んでいくみたいなのが好きなので、決め打ちされる泣き顔シーンにこちらもやられてしまう。

 あとやっぱり「誰かを愚直に信じる」みたいなの、美しいよね、現実ではなかなかできることじゃないもんね。そういう強さ、或いは対人関係における〝真摯さ〟、憧れや理想も含め、フィクションが掲げるに相応しいものだと思う。

 

 スポーツ漫画と言えば決して外せないのが神海英雄『LIGHT WING』であることは皆様ご承知の上であると思いますけれども、勿論こちらの話もさせていただきます。

 ライトウイング、ネタ的な消費の方が多いのが残念でならないんだけれども、やはりある種の痛々しさは否定できない。――それは初連載という若々しさでもあり、作中のキャラクターの突き抜けるような愚直さからくるものであると思う。しかし僕は、何よりもそれが愛しい。

 僕が世界で一番好きなスポーツ題材の物語がこのライトウイングであることも皆様既知で久しいかとは思いますが、この漫画の素晴らしいところは、「主人公が持つ愚直さ、ストイックさ、ポジティブさ、そういったものに、彼と関わった人たち全てが感化される」という描写をはっきりと魅せているところだ。その「関わった人たち」には敵対高のライバルたちも含まれるというところがミソだ。

「主人公」という立ち位置は何種類かあると思うのだけど、オーソドックスな「読者と同期する視点で、物語の進み具合と一緒に成長し、困難を克服していく」タイプとは別に、「カリスマを以て周囲の環境を変えていく」タイプがあると思う。そして後者の場合、そのキャラクターは既に一定の成長や克服が完了しているため、代わりに語り手の視点に立つキャラクターが配置され、その人物がよくある主人公目線として成長を描かれることになる(そのキャラクターも御多分に漏れず、カリスマ性に革命をもたらされる一人だ)。ライトウィングは後者だ。天谷リヒトというキャラクターが間違いなく今作の主人公だが、それを傍から見る及川累次というキャラクターが語り手(≒平凡な僕ら)に近い存在として視点の役割を与えられている。

 この漫画は残念ながら三巻で打ち切られてしまった。しかし打ち切りが決まってからの〝切り返し〟が素晴らしく、結果としてこの作品を傑作にした。当初の予定ではそれぞれのメンバーの〝覚醒〟を、個々の悩みの克服などを踏まえ時間をかけて描いていく計画だったのだろうけれど、打ち切りが上手い具合に機能したんだろうと思う。佐治という一度折れたキャプテンの再起に山場を持ってきて、試合は一気に目標とする大会の決勝まで飛ぶ。この漫画は結末まで描かれてはおらず、単行本であと一話分くらい加筆してほしかった気もするけれど、あれでよかったのだ、とも思う。彼らの戦いは終わらないのだ。

 

 そしてライトウイングの「強力な個性が集ったチームって最強でしょ」という精神を受け継いだのが、作者の次の連載漫画『SOUL CATCHER(S)』だ。僕が他人に漫画を勧めるならノータイムでこれを選ぶということも皆様ご承知済みではあるかと思いますが、この漫画、吹奏楽というサッカーからは一見遠そうに見えて、実はライトウイングとほとんど同じテーマを持っている、作者的にもリベンジの作品だ。

 作劇として作者の力量の上昇が見られるのは、皆をまとめ、それぞれの長所を引き出すリヒトポジションのキャラクターが、しかし及川と同じ「平凡な僕ら」視点も同時に持っていることだ。己の成長と、部員の成長を同時に描き、絆を深めていく。ライトウイングの悪役、〝相手の心を折る〟ことに快楽を見出すシアンというキャラクターの精神を受け継いだ黒条という男も登場し、ここにもやはり、ライトウイングのリベンジが見て取れる。

 ソウルキャッチャーズはなかなか特異な遍歴を持ち、本誌→ネクスト→プラス(アプリ)と連載の場が二回替わり、11巻を以て完結した。サッカー、吹奏楽、どちらも集団の力を合わせなければ結果を掴むことはできないものだ。そういった環境を舞台に、高校生の部活動を描く、友情や、恋愛や、挫折からの再起の群像を描くに、学校の部活は相応しい。現実においては部活の指導問題、時に死者すら出るような環境の問題が取り沙汰されるが、やはりそれとこれとは別だ。フィクションに現実の枠組みを過剰に持ち込むのは、見当外れ甚だしい。

 

 神海作品はとても真摯だ(事実として、真摯さを評価の軸に添えるキャラクターがSC(S)には登場する)。どのキャラクターも真っ直ぐで、濁りにすら一貫した芯がある。だから皆救われてほしいし、それが叶った時、涙を誘われる。その真摯さは、きっと作者自身の真摯さなんだろうと思う。次の連載も、僕は待っている。

 

 というわけで、ハイキューの話から始まりライトウィングを経て、ソウルキャッチャーズを勧めるという記事でした。正直一巻で惹き込まれなかったら無理して読む必要はないと思う。何故なら1、2話で既にこの作品はひとつの巨大な山場を迎えていて、この二話だけの読み切り作品だったとしても僕は傑作だったと思うし、思えない人は思えないからだ。

 

「僕の世界を変える君」という物語が好きだ。恋愛というテーマはそれを最大限引き出してくれるものだとは思うけれど、例えば男女の物語だったとしても、それを恋の枠組みに嵌めてしまう必要はないと思う。それはとても窮屈な思考だ。たった一人でも、抱く孤独や不満、不安を融かし、手を差し伸べてくれる誰かがいるだけで、世界は変わるのだ、そういう美しさを愚直に真摯に描くことは、やはり物語が持てる力なのだと思う。


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 もしもそれが叶うのなら、僕は17歳の頃と同じように、目を輝かせて、子供みたいにはしゃぐこともできるよ。後先考えず、無敵に近い全能感で、くだらないこともやり尽くしてみせるよ。まだ憧れてるよ、ずっと待ってるよ、世界が変わる瞬間を。